アノドスという器には、私に影響を与えた多くの人々や物、そしてサービスのあり方が反映されています。将来私たちが手がける製品にも、これらの影響が見てとれるかもしれません。私にとって、未来への一歩とは常に時間を遡り、インスピレーションの源に立ち返ることと同義語なのです。
ハードとソフトの巧みな融合
“シンギングバード”(1780年代~)から。ゼンマイで動くアナログガジェットだが、初歩的な機械式プログラムを持ち、操作すると鳥が出現して実物を思わせる声で鳴く。著名な製作者はジャケ・ドロー(1721~1790年)。彼の製作したオートマタ三部作は、ヨーロッパ全域で大きなセンセーションを呼んだ。ハードとソフトを巧みに融合し、芸術性も加えた点で、もっともインスピレーションを受けたガジェットのひとつ。
アトラクティブな発想
“ニコラ・テスラ”(1856~1943年)から。エジソンのライバルにして交流電力システムを完成させたテスラは、磁束密度の単位としても知られている。多くの功績を残した大発明家だが、一方では人を惹き付ける魅力的なアイデアも多く実現した。共振原理を応用したテスラコイル(1897年)の起こす稲妻は、視覚的エフェクトにも活用されている。また現在注目を集める無線操縦ロボット(1898年)も彼のアイデアを踏まえたものだ。
偶然性の面白さ
“西陣 保安官ワイアット”(1987年)から。昭和末期のパチンコ台で、大きな人気を博した。入賞には意外な動きが必要で“偶然に”入賞する点が興味深い。一見、投げやりな構造だが、相当練られたコンセプトが人気の要因だった。液晶デジタルを持たなくとも、ハードウェアとソフトウェアを高度に組み合わせることで成功を収めたエンターテイメントサービス。“意外さこそエンターテイメント”を論理的に突き詰めたガジェットである。
造形の美しさ
“ドレスデン数学物理サロン”(1728年)から。16世紀以降の精密機械を展示する博物館で、時計の他、機械式計算機、天球儀、万歩計、精密なオートマタなどを所蔵する。精密機器の魅力を知る上で、数学物理サロンほど魅力的な博物館は稀。ツヴィンガー宮殿とあわせて、建築自体の造形美も特筆に値する。当時のドレスデンはバロック建築が隆盛を極め、多くの傑作を生み出した。ドレスデン数学物理サロンはそのなかの白眉である。
新ジャンルの開拓者
“カシオ QV-10”(1994年)から。近年、もっとも成功したデジタルガジェットで、当初こそ“オモチャ”と捉えられていたデジカメだが、カメラ業界に取って代わるきっかけを生んだ。純粋なハードウェアだが、インターネット上のコミュニケーションツールとして認知された点も興味深い。QV-10を含め、日本製のデジタルカメラには新ジャンルを開拓するだけでなく、高度な機能をも融合するという日本のものづくりの強みが生きている。